![]()

早出するつもりで目覚まし時計を5:00にセットしていたが、昨日の疲れのため寝坊してしまった。目が覚めたときは、既に7:30だった。すぐに朝食を済ませ、アイゼン、ピッケル、プラスチックブーツ、防寒具にポリタンザックに詰め、を8時過ぎにはホテルを出発した。シュルーマッテンリフト乗り場まで歩いていき、そこからゴンドラとロープウェイを乗り継いでクラインマッターホルンまで上がり、そこからの登山となる。歩き始めてからすぐにスーパーマーケットを見つけたので、そこで行動食と水を購入した。シュルーマッテンリフト乗り場へは、ツェルマットの中心を流れるマッターフィスパ川沿いの道を上流に向かって10分ほどの道のりだ。途中に、マッターホルンのよく見えるビューポイントもあったが、相変わらず半分雲に隠れたままだった。幸い、これから登ろうと思っているブライトホルンの山頂はよく見えていた。
リフト乗り場に着き、ゴンドラとロープウェイを3度乗り継いで、一挙に3,883mのクラインマッターホルンまで上がった。ロープウェイの駅は岩壁にトンネルを掘って作ってあり、出口はトンネルを通って岸壁の裏側に出たところにあった。そのトンネルは長く、50m以上はあるだろう。
そのトンネル通路の途中に展望台へ上がるエレベーターがあった。先ずは、そこに上がってみることにした。
展望台から、ブライトホルンの山頂は目と鼻の先に見える。山頂付近に、数珠繋ぎになった登山者達の姿もよく見えた。マッターホルンだけは、相変わらず雲をかぶったままだ。僕は、近くの人に記念写真を撮ってもらい、ひとしきりアルプスの景観を楽しんでから展望台を後にした。
再び、トンネルの通路に戻り薄くらい通路を出口に向かった。出口付近は、登山者だけでなく、夏スキーを楽しむ人もいて賑わっていた。僕は、出口の脇に置いてあったベンチに腰掛け、防寒具のオーバーズボン、ジャケットを着て、プラスチックブーツにスパッツを装着し、ダブルスティックで歩き始めた。
他の登山者は、すべてアンザイレンしている。単独で歩いているのは僕だけだ。こんな所で、ザイルを結ぶ必要があるのだろうかと思いながら歩いていると、歩き始めてわずか50mほどの所に、パックリとクレバスが口を開いていた。十分に人の落ちることの出来る大きさだ。しかも、そこはスキーヤーがゲレンデに出るための、幅10mほどの通路の真ん中だ。ロープも、何の目印もない。誰が落ちてもおかしくないだろうと思える。至る所に進入禁止箇所を設けている日本のスキー場では考えられないことだろう。これが、自己責任というものなんだろうかと考えさせられる。
ブライトホルンへは、そこからスキーコースを離れフラットな雪原をしばらく歩いた後、40度ぐらいの急斜面を上り詰めて山頂に出る事になる。山頂へのコースは二つあり、ぐるっと回ってくるのが一般的なようだ。
雪原を歩き始めたところで、山頂付近にガスが出始めた。斜面にとりついた頃には周囲は、完全にガスで覆われていた。僕は、そこでアイゼンを装着し、スティックをアイゼンに持ち替えた。風も強く、引き返してくる登山者もかなりいたが、踏み後ははっきりしているし、高度順応という目的を考えて、そのまま進むことにした。
30分ほど、40度くらいの急斜面を登ってから踏み後はようやく稜線に出た。稜線は狭く、山頂直前では人一人がようやく歩けるほどのナイフリッジになっていた。そのナイフリッジをすう20mほど行った先に山頂があった。山頂には何もなかったが、そこは踏み後が広くなっていて、その先は下っていることから、そこが山頂であることがわかった。標高は、4,165m。高度障害は全く出ていない。ガスは濃くなる一方で、風もかなり強い。僕は、そこに長居したくないと思い、水を一口飲んですぐに下山をはじめた。
ガスが濃いこともあり、帰りは来た道を帰ることにした。ナイフリッジを注意して通り過ぎた後は走って下った。30分以上かかった登りも下りは10分少々だ。後は、アイゼンをはずし平らな雪原をゆっくりロープウェイの駅まで戻った。あっけない登山だったが、高度順応としては十分だろう。
再び、ロープウェイとゴンドラを乗り継ぎ、歩いてホテルに戻った。ホテルに着いた時間は、2時30分。まだまだ時間があるので登山電車でゴルナグラートに行ってみることにした。そこは、マッターホルンが最もきれいに見えると言われている展望台があるところだ。登山電車の駅で時間を見ると20分ほどの待ち時間があ
ったので、すぐ隣の鉄道駅行き明日のシャモニ行きの切符を購入してから、登山電車に乗り込むことにした。
登山電車からの展望は素晴らしかった。そのころになると、晴れ間が広がりマッターホルンが半分雲に隠れている以外は、ほとんど展望がきくようになっていた。ブライトホルンの山頂もよく見える。少し、悔しかったが仕方がない。ただ、明日からの事も考え今回は登山電車で上がってそのまま登山電車で下りてくるつもりだったが、こうも天気がよくなると歩きたくなってしまうのが心配だ。
ゴルナグラート駅では、モンテローザから流れてきているグレンツ氷河の展望が素晴らしかった。これまで氷河は何度も見ているが、これほど大パノラマの中に氷河の流れがはっきり見れる展望はじめてだ。しかも、快晴だ。当然気分は高揚してくる。ホテルのテラスでコーヒーを飲んだ後、僕は我慢できずに、一駅分だけ歩くことにした。そこには、リッフェルゼーという小さな湖があって、湖面にマッターホルンが映る逆さマッターホルンで有名なところだ。
30分ほど気持ちよく歩いてリッフェルゼーについた。湖面には、相変わらず半分雲に隠れたマッターホルンが映っていた。4,5人のトレッカーが湖畔にいたがマッターホルンや湖とは全く別方向の小さな岩山に注意を注いでいるようだった。何だろうと思って近づいてみるとそこにはアルプスアイベックスの群れがいた。アルプスアイベックスとは、山ヤギの一種で絶滅の危機にある動物だ。僕は、嬉しくなりそっとその群れに近づき座り込んで見入った。一番近づいたときは、50mくらいだったろうか。とにかく、絶滅の危機にある大型動物が僕の目の前にいると言うことに感動した。しばらくその群れを眺めていたが、30分ほどでついに見えなくなってしまった。
アイベックスの群れに出会え、その日のトレッキングには十分満足できたということですぐ近くのローデンボーデン駅からツェルマットに戻ることにした。ホテルに戻り、軽くシャワーを浴びてから食事に出た。その日は赤ワインとスイス料理を楽しんだが、明日の事を考え早めにホテルの戻りシャモニへの移動に備えた。