1日目


フィプスに向かう車内

 早朝、4時過ぎに空港内の清掃の音で目が覚めた。人が乗って床を磨く機械が行ったり来たりしていた。4時半くらいまで横になっていたが、だんだんと掃除の機械が近づいてきたので起きることにした。近くのトイレで顔を洗い、寝床を撤収した。お腹が空いているが、さすがにこの時間では店は開いていない。しばらくベンチに座って汽車の時間を待つことにした。汽車の出る6時が近づいても何処の店も開かないし、駅の窓口も開かない。仕方ないので、昨晩見つけた切符の自動販売機でカードを使って切符を購入して、プラットホームに向かった。その自販機には、大きなローラーとボタンが付いていて、そのローラーを動かして、言語(英語を選択)、行き先、片道or往復、ファーストorセカンドクラスなどを選択しボタンで決定していき、最後にカードを挿入し暗証番号を入力するとツェルマットに向かう登山電車いうもので、簡単にツェルマット行きの切符を購入することが出来た。プラットホームに降りてみると、既にブリーク行きの汽車が止まっていた。各車両に1か2の数字が大きく書かれていて、それが車両のクラスを表示していると言うことだった。僕は、セカンドクラスの切符を買ったので、2と大きく書かれた車両の人の余り乗っていないものに乗り込んだ。一つの車両は真ん中でガラスの壁で仕切られており、片方が禁煙でもう片方が喫煙だった。
 僕は、レマン湖の見える右側の席に座った。車窓からの風景は、ヨーロッパのきれいな町並みや、レマン湖やアルプスの山々、小さな古城など飽きることなく楽しむことが出来た。ただ、空腹と眠気だけは辛かった。途中で、車内販売がやってきて、チョコクロワッサンとコーヒーを買い、何とか空腹をまぎらわす事が出来たが、フィプスで乗り換えなきゃならないので寝ることだけは出来なかった。登山電車の車窓から
 列車は、2時間半ほどでようやくフィプスに着いた。ここからは登山電車だ。時刻表を見ると、30分ほど待ち時間があるようだったので、近くのオープンカフェでサンドイッチとコーヒーを頼んだ。少し落ち着いたところで、いよいよツェルマットに向かって出発だ。
 登山電車の始発はブリークなので、電車がフィプスについたときにはたくさんの人が乗っていた。空いていそうな車両を選び電車に乗り込み、かろうじて席を確保することが出来た。ただし、席は右側でおそらく左側の方がいいのだろう人気が偏っていた。電車は、水量の豊富なマッターフィスパ川に沿って進んだ。途中いくつかの駅に停まったが、それぞれの駅でトレッキングの格好をした西洋人達が頻繁に乗り降りしていた。景色はすばらしかったがマッターホルンはなかなか見えない。小一時間ほどでたっと所で左側に大きな駐車場が見え始めた。ツェルマットでは、一般車は乗り入れできなくなっており車で来た人は皆そこに車をとめて行くそうだ。駐車場を過ぎて、すぐに正面にマッターホルンが見えた。かっこ良かったが、その日はあいにく半分雲で隠れていた。マッターホルンが見えた思ったら、次の瞬間には電車はツェルマットのホームに入っていた。
 駅について、すぐにしなければばらないことは宿探しだ。僕は、まず駅のすぐそばにある観光案内所に行ってみた。カウンターには既に長蛇の列が出来ていて並ぶ気になれなかった。一面にいろんなホテルの写真と料金が掲載されている大きなパネルがあるのに気づいた。よく見ると、ホテルごとに番号がついていて、その番号を押すと地図にそのホテルの場所が点灯する仕掛けになっていた。僕は、やすそうなホテルを二つ見つけ、その番号を押してみた。片方は、ユースホステルで駅からかなりはずれていた。もう一方は、ミシャベルというホテルで駅や繁華街にも近かった。料金は、バストイレ付きのシングルが一泊朝食付きで62スイスフランだ。1フランが87円くらいだったので5,400円くらいだ。驚くほど安くは無いが、ツェルマットのホテルの中では最低クラスだ。まず、ここに当たってみることにした。そのとき、ふと気がつくとパネルの横の方に受話器があり、西洋人がそれで話していた。どうやら、パネルの番号を押すとそのホテルに直通で電話がかかる仕組みになっているらしい。僕も、恐る恐るミシャベルの番号を押してみた。「今日と明日、一人泊まりたいんですが。」(一応英語で)と言う問いに、あっさり「O.K」の返事が返ってきた。「まだ午前中だが、すぐにチェックイン出来るか。」と言う問いにも、「ノープロブレム」という答えが返ってきた。これで、第一関門突破だ。
 僕は、そのあとまっすぐホテルに直行し、チェックインを済ませた。あいにく、マッターホルンの見える側の部屋は埋まっていたが、小綺麗で快適な部屋だ。荷物を部屋に置いて、僕はすぐにトレッキングに出かけることにした。ツェルマットから山に登る乗り物は大きく分けて3つある。一つは、ツェルマットの一番奥からゴンドラやケーブルカーを乗り継いでクラインマッターホルンやシュヴァルツゼーに向かうもの、もう一つは登山電車でホテルのあるゴルナーグラートに向かうもの、そしてもう一つが地下ケーブルでスネガーの展望台に行き、そこからゴンドラでウンターロウトホルンまで行くものだ。スネガに向かう地下ケーブルカー
 僕は、クラインマッターホルンとゴルナグラートには明日行くことにして、その日は地下ケーブルでスネガーに行き、そこからゴンドラを乗り継いでウンターロートホルンに行ってみることにした。
 ケーブルカー駅では、ツェルマットのすべての登山電車とケーブルカーで使えるツェルマットピークカードを購入した(3日間有効で、154フラン)。少し高いが、明日のことを考えると割安になる。それに、カードにはその場で顔写真がプリントされるので記念にもなる。スネガー駅では、買い忘れていた水を購入しすぐにウンターロートホルンに向かった。天気もよくアルプスの山々が一望でき最高の気分だ。ウンターロトホルンからスネガーまでトレッキングするつもりだったが、気持ちがいいのでオーバーロートホルン(3,413m)まで上ワインがたっぷりしみ込んだランチがってみたくなる。
 取りあえず、ウンターロートホルンのカフェで昼食を摂った。トーストにハムとチーズ目玉焼きをのせて焼いたものをスネガよりマッターホルンを望むオーダーした。フランスのクロック・ムシューとクロック・マダムを合わせたような料理だ。これから、オーバーロートホルンに上がることを考えて、アルコールではなくコーヒーを一緒に頼んだ。ところが、出てきたトーストにはたっぷり白ワインがしみこませてあり、食べ終わる頃にはほろ酔い状態になってしまった。
 時間をかけて、ランチを食べ終えてから結局、オーバーロートホルンに登ることにした。登りはじめてからすぐに、周りが花だらけであることに気づいた。日本の高山植物と違い、花自体が小さく背の低いものばかりだったので気づかなかったのだ。中には日本の高山植物とそっくりなものももあるが、見たこともなおようなはなもある。ある行き始めてから、10分ほどのところで有名なエーデルワイスとも出会うことが出来た。最近、花に興味を持つようになった僕にとっては感動の出来事だ。 それからは、カメラを手に持ったままの歩きで、新しい花が現れるたびに腹這いになってシャッターを切った。
 中腹まで登ったところで、少し頭が痛くなり始めた。軽い、高度障害だ。ランチに含まれていたアルコールも影響しているかもしれない。ツェルマットには高度順応が目的で来ているので、この程度なら大歓迎だ。
 一時間ほどで山頂に着いた。展望は素晴らしい。特に、モンテローザが流れ出ているフィンデルン氷河の眺めが素晴らしかった。ただ、マッターホルンだけは相変わらず半分雲に隠れていた。山頂には、老夫婦と若者の二組のカップルがいた。お互いに写真を取り合い、楽しい一息を過ごした。
 ウンターロトホルンまで戻っても、まだ日が高い事ウンターロートホルン山頂もあり、お花畑に誘われスネガー駅まで歩いてみることにした。このあたりは、冬場はスキー場になってるみたいで、大きな圧雪車も通れるくらいにに造成されていた。ただ、道の脇にはたくさんの高山植物が咲き乱れていて、時々貴重種のエーデルワイスも見ることが出来た。また、道路から谷底側を覗いてみると、5,6匹のモーマットが僕に気づいて一斉に急斜面を走って下って行った。ものすごい、スピードだ。しかも、お尻しか見れなかったが、想像していた以上にでかスイスの山小屋かった。
 のんびりトレッキングを楽しんでいる間に、かなり時間がたってしまいスネガ駅に着いたときには既に、ケーブルカーの営業は終わってしまっていた。こうなると、歩いてツェルマットまで行くしかない。道しるべの矢印はどっちに行ってもツェルマットと書いている。たまたま、スネガ駅に居合わせた白人男性は駅に向かって左の方向に行くことを奨めてくれた。ただ、地図ではどう見ても右に行く方が近そうに見える。僕は、自分を信じて右側に行くことにした。小さな湖の畔を抜け、小さな集落を超えると森の中の登山道になった。木は、日本のカラマツににていた。植林されたもので、よく手入れされていた。結構な急斜面をつづら折りに下っていった。少しづつ、街が近づくにつれツェルマットの町並みが見えるようになってきた。途中に、いかにもスイスの建物らしい、ネズミ返しのついた高床式の倉庫のような小屋があった。そこからは、道も少し広くなった。途中、ゴルナグラートへ行く登山鉄道の線路の脇を通ったときに、下から電車が上がってきた。こちらの、営業時間は遅くまでやってるようだ。明日の、午後はこんな目にあわないよう時間をちゃんと調べてから行くことにしようと心に決めた。
 夜8時を過ぎた頃に、ようやくホテルにたどり着いた。8時と言ってもここでは9時過ぎまで外で十分歩けるほど明るいので問題はない。ただ、こんなつもりじゃなかったのに、日本からの長旅の直後の8時間行動になってしまった。かなり疲れてしまったような気がする。本番が、心配になってしまった。取りあえず、シャワーを浴びた。しっかりしたお湯が出るし、柔らかいタオルも置いてある。一つ☆ホテルとしては十分だ。
 シャワーをあびすっきりしてから、街に出た。目的は、ビールとワインだ。ツェルマットの一番の繁華街であるバーンホフ通りを歩いていると、日本語メニューが張り出された小綺麗なレストランがあったので、そこに入ってみた。取りあえず、ビールを一杯飲み干した。次に、チーズの盛り合わせとスタミナがつきそうな牛のレバーの料理にハーフボトルのワインをたのんだ。その日は、デザートまで行くつもりだったが、不覚にも料理を食べ終わった後席に着いたまま居眠りをしてしまった。
 僕は、レストランのウエイターがテーブルをたたく音で目を覚ました。熟睡してしまっていたようだ。相当、疲れていたのだろう。僕は、すぐにチェックを済ませホテルに戻り、明日に備えてベッドに潜り込んだ。
 
 
 
 
 

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